著書『日本の独立』(飛鳥新社)やブログ「植草一秀の『知られざる真実』」などで、利権複合体(既得権益勢力、米国、官僚、大資本のトライアングル)の真相・真実と、主権者たる国民がこれらの諸権力と闘う必要性を訴え続けてきた植草一秀氏。転換期を迎えた日本国家について、どのように感じているのか話を聞いた。
これに対してサブプライム危機とは何であったのか。サブプライムローンの焦げ付きが問題だとされていますが、サブプライムローンそのものの残高は1兆ドルから1.5兆ドルの規模にすぎません。
アメリカの不動産価格は06年半ばをピークに09年にかけて下落しましたが、下落率は35%程度に過ぎません。日本のように、5分の1や10分の1に暴落したわけではありません。仮に1,5兆ドル融資をして、不動産のピークですべての不動産を買ったとしても1ドル100円で換算すれば、3分の1が焦げ付いても、損失は50兆円にしか達しません。この程度の焦げ付きでアメリカ経済、世界経済が揺れ動くはずがありません。
サブプライム危機の本質は、危機が金融原商品の損失で生まれたのではなく、金融原商品をもとに組成された金融工学商品、デリバティブ金融商品の損失によってもたらされた点にあります。デリバティブ金融商品はおよそ600兆ドルから800兆ドル沿組成されたと見られています。円換算では6京円とか8京円という、雲をつかむような規模に達してしまった。
この際限なく膨張したデリバティブ金融商品の仮に1%が損失になったとしても、その規模は6兆ドル、円換算で600兆円という規模に達するわけです。日本の80年代、90年代の不良債権問題は100兆円の損失で、「失われた10年」とか「20年」と言われているのですが、サブプライム危機はその規模が文字通り桁違いだというわけです。おそらく600兆円規模で発生した損失に政府は懸命に対応して、とりあえず表面からは見えないようにしました。
危機が見えなくなった最大の要因は、不動産価格が09年半ばから10年半ばにかけて小幅反発したことです。原商品の価格が上がると、デリバティブ金融商品の損失はレバレッジ=てこの原理で大幅に縮小しますので、金融危機がいったん見えなくなった。しかし、10年半ばからはもう一度不動産価格が下落に転じており、金融機関の損失が再び拡大し始めています。金融政策はこれ以上金融緩和を進められぬ段階に来ており、他方、財政政策が超拡張から中立になり、さらに今後は超緊縮に転じる話が浮上しているわけです。
日本では、96年にいったん株価が2万2,000円台に上昇し、景気が良くなったのですが、橋本政権が大増税を実施して日本経済を98年にかけて破壊してしまいました。連動して不良債権問題が火を噴きました。98年から2000年にかけて小渕政権が経済改善策を総動員して日本経済は再び浮上しましたが、2000年以降、森政権と小泉政権が超緊縮財政を実行して、日本経済は再び破壊されてしまったわけです。
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